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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)2438号 判決 1975年12月19日

原告 ミユキ実業株式会社

右代表者代表取締役 阿部哲夫

右訴訟代理人弁護士 近藤与一

同 近藤博

同 近藤誠

被告 東調布信用金庫

右代表者代表理事 長久保定雄

右訴訟代理人弁護士 大林清春

同 池田達郎

同 白河浩

主文

一  原告は被告に対し別紙物件目録記載(一)の土地のうち別紙図面のイ、ト、チ、リ、イの各点を順次直線をもって結んだ線内の部分三七・九六平方メートルの土地(同図面朱線をもってかこまれた部分)につき別紙地上権目録記載のような法定地上権を有することを確認する。

二  被告は原告に対し別紙物件目録記載(一)の土地のうち前項記載の三七・九六平方メートルの土地につき分筆登記手続をなしたうえ、右三七・九六平方メートルの土地につき前項記載の法定地上権の設定登記手続をせよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告は被告に対し別紙物件目録記載(一)の土地(以下本件土地という。)につき次の内容による法定地上権を有することを確認する。

(一) 目的 非堅固建物所有

(二) 存続期間 昭和四六年九月七日より三〇年

(三) 地代 昭和四六年九月七日以降昭和四九年一二月三一日まで一ヶ月金一五、三九〇円(三・三平方メートルあたり五〇〇円)、昭和五〇年一月一日以降一ヶ月金三〇、七八〇円(同じく一、〇〇〇円)

(四) 支払時期 毎月末日

2  被告は原告に対し、本件土地につき前項記載の地上権の設定登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  法定地上権の発生について

(一) 本件土地及びその地上に存する別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)はいずれも、もと訴外丸山直人(以下訴外丸山という)所有の物件であった。

(二) ところで、訴外丸山は、その所有にかかる本件土地(昭和三五年八月一九日付をもってその旨の所有権移転登記を経由)のみについて、昭和四一年八月二日、被告との間に被告の同訴外人に対する金二、〇〇〇万円の債権を担保するため、抵当権設定契約を締結し、同年同月二五日付をもってその旨の登記を経由した。

(三) 一方、原告は、その後の昭和四四年一二月一九日、訴外丸山から本件建物を買受けてその所有権を取得し、昭和四五年三月一二日その旨の所有権移転登記を了した。

(四) ところで、被告は、訴外丸山に対する前記抵当権につき昭和四四年七月一四日東京地方裁判所に任意競売の申立をなし、競落により昭和四六年九月七日本件土地の所有権を取得し、同年一一月六日その旨の登記を経由した。

(五) そして、本件土地に対する被告の前記抵当権設定の以前からその地上に本件建物が存在し、右設定の当時ともに同一人である訴外丸山が両物件の所有者であったのであるから(本件建物につき昭和三九年八月四日付をもって訴外丸山所有名義で保存登記を経由)、右抵当権の実行により被告が本件土地の競落人となっても、訴外丸山及びその承継人である原告は、本件建物の所有のために、被告に対し法定地上権をもって対抗しうるところである。

2  法定地上権の内容範囲について

(一) 期間につき

本件建物は非堅固建物であり、しかも存続期間の定めがない場合であるから、借地法二条によって被告が所有権を取得した日である昭和四六年九月七日から三〇年間である。そして非堅固建物の所有を目的とするものである。

(二) 賃料につき

前記四六年九月七日から昭和四九年一二月三一日まで一ヶ月金一万五、三九〇円(三・三平方メートルあたり金五〇〇円)、昭和五〇年一月一日以降一ヶ月金三万〇、七八〇円(三・三平方メートルあたり金一、〇〇〇円)が相当であり、その支払期は民法の規定により毎月末日払が相当である。

(三) 範囲

本件建物の利用に必要な範囲は本件土地の全部であるから、本件法定地上権の及ぶ範囲は本件土地全部である。すなわち、

(1) 本件土地、建物の面積、位置、形状は別紙図面のとおりである。そして本件建物の出入口は南側道路に面し、本件土地中、(イ)本件建物の東側部分は空地となっており、(ロ)本件建物の北側部分には約六坪のプレハブ建物(その位置は別紙のとおり)があり、その南側に墓石セット(その位置は別紙図面のとおり)がある。

(2) 本件建物は、昭和四一年一一月八日、所有者訴外丸山から、原告会社及びその子会社の理興産業株式会社(以下理興産業という)が敷金三〇〇万、賃料一ヶ月三万円で賃借していた。そして、当初は、本件建物の裏側及び東側に空地部分があるので、理興産業が自動車金融を行ない、本件建物はその事務所、右空地部分は自動車置場として使用したが、その後、原告が、富士山麓一帯で墓の造成、販売を行なう富士霊園の販売代理店となって、右自動車金融を廃止し、かわりに、墓石セットの見本を右空地部分におき、墓の販売取次を行なうようになり、現在に至っているものである。その間、前記のように原告は本件建物を買取るとともに、右買取りの日、訴外丸山との間で本件土地につき普通建物の所有を目的として、期間右同日から向う二〇年間、地代一ヶ月一、五三九円(二〇年間一括前払い)の約で賃貸借契約を締結した。

従って、本件建物は、本件土地の西南部の角地にあり、なるほど、裏部分と東側部分に空地があるが、この空地部分は、本件建物の利用に附随して、賃貸借の目的となり、又、本件建物の売買に際しても、その空地部分の借地権が考慮されて取引の対象とされ得る性格のものであり、実際に、原告や理興産業も、右空地部分の利用を考えて建物を賃借し、また、原告もこの部分の利用を考えて建物を買取り、本件土地全部を賃借しているのであって、本件土地全部が本件建物の合理的な利用上必要な範囲にあるというべきである。また、もし被告主張の如く、建物の敷地部分のみが法定地上権の対象となると考えるならば、建物は角地に存在するのでその敷地部分を除いた土地部分は、価値の大半が失われるであろうし、本件建物自体も、もともと、その建物の作り方は事務所用の平家建であるので、空地部分を除いては、取引価値の大半を失うことになると思われる。

(3) 一方、被告は、本件土地に抵当権を設定するときから、本件建物の存在は知っていた筈であるし、その故に他に友人石井の不動産にまで抵当権を設定したものと推定される。建物がある以上、土地のみに抵当権を設定しても競落人が法定地上権の対抗をうけることは被告としてもよく知っていた筈であるから、被告は一筆の本件土地全体について、法定地上権の対抗を覚悟していたものである。また、競落の段階でも、土地全部が法定地上権の対抗をうけることを知って、それを覚悟の上で、競落したものである。さらに被告は、本件土地の空地部分が前記のように利用されていることを知って、競落したものである。被告主張の部分のみ、法定地上権が成立するとの認識で、競落したわけではないのである。全部が法定地上権で対抗をうるという考慮で、競落したものである。

(4) 右の次第で、抵当権設定者の被告、競落人の被告の認識を基準としても、又一般に土地競落人が競落の際に考慮する土地の利用価値から考えても、競落当時の土地利用状況からみて、法定地上権はその全部に及ぶものである。

3  よって原告は被告に対し請求の趣旨記載のような法定地上権の確認とその登記手続を求めるため本訴請求に及んだ。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中(一)、(二)、(四)の事実は認めるが、その余の事実は争う。

2  請求原因2の事実中、(一)の事実(三)の(1)の事実及びかりに本件土地もしくは、本件土地の中、後記被告主張の部分に法定地上権が成立する場合の賃料につき、原告主張のような額が相当であることは認めるが、その余の事実は争う。

3(一)  法定地上権制度はもともと競売による土地所有権の移転により土地利用権が消滅して地上建物の存立基礎がなくなることを防止することに意味があり、当事者の意思推定を根拠とするものであるから、従前当事者間に何らかの利用契約が存在すれば法定地上権ではなく、右利用契約によるべきである。

そして、本件土地の競売事件につき昭和四五年二月一〇日東京地方裁判所執行官作成の賃貸借関係取調調書によれば、本件土地及び北区上十条一丁目一九番二の土地は原告及び理興産業が共同賃借人として次の内容の賃貸借契約を結んでいた。

1  期限 昭和四一年一一月一日より昭和五一年一一月一日まで一〇ヶ年間、一〇年毎に更新

2  借賃 一ヶ月三万円 毎月末日払

右は、原告会社社員高居正博に出会し、同人の陳述及び土地建物賃貸借契約書によりこれを認めたとされている。従って本件においては右の賃貸借によるべきである。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、法定地上権の内容は右利用契約の内容の範囲で認められるべきである。

なぜなら、本来地上建物の保護のために認められる法定地上権が地上建物の存立と関係なく強大な内容を付与されるのは背理と思われるからである。

すなわち従前賃借権が設定されている場合は、法定地上権の根拠である、利用権を与えることについての抵当権設定者の意思と抵当権者の予期とは、いずれも、設定された賃借権をこえるものではない(注釈民法(9)一八一頁)。

そうとすれば、原告の法定地上権は、前記(一)に述べた内容の範囲内に限られるべきものである。

従って、その存続期間も「昭和四一年一一月一日より昭和五一年まで一〇ヶ年間」であるとするのが相当である。

(三) かりに本件土地の従前の利用関係が原告主張のとおりであったとしても、法定地上権の成立範囲を決定するための地上建物の利用に必要な範囲とは、単に主観的に本件建物の利用のため必要であるばかりでなく、客観的にも本件土地全部が建物利用に必要であることを要すると考えるのが相当である。そこで右見地によればその範囲は本件土地のうち後記のような三七・九六平方メートルである。すなわち

(1) 原告は「本件建物の敷地部分を除いた空地部分は価値の大半が失われる」と主張するが、本件土地は国鉄赤羽線十条駅から一〇〇メートル内外の距離に位置し、周囲には小さな店舗が立ち並んでおり、「空地部分」だけでも小規模な店舗を建てるなどして利用するには充分であり、利用価値、取引価値は存するものである。さらに本件敷地部分と空地部分とは相互に建物及び土地の取引価値、利用価値を増し合っているとする原告の主張はそれ自体としては正しいとしても、だからといつて、法定地上権が本件土地全部に及ぶものとはいいえない。

(2) 一方、本件土地は、近隣商業地域且つ準防火地域に属し、建築面積の敷地面積に対する割合は十分の七をこえることができない。

さらに、本件建物は北側及び東側には出入口がなく、南側と西側とは道路に面している。

(3) 従って、本件建物の北側壁面から〇・五〇メートル、同じく東側壁面から〇・八〇メートル離れた直線で囲まれた部分(別紙図面上、イ、ト、チ、リ、イの各点を順次直線で結んだ線内に囲まれた部分)が本件建物の利用に必要な範囲であると思料する。

それは、右土地部分の面積が三七・九六平方メートルであり、一方本件建物の敷地面積が二五・九二平方メートルで右部分の十分の七弱となり、建築基準法上の割合をこえていないし、利用について事実上何らの支障もないからである。

三  抗弁

1  原告は、被告が昭和四六年九月七日本件土地所有権を競落により取得して以来本件土地の地代を支払っていない。

2  そこで被告は原告に対し昭和四八年九月一九日の本件口頭弁論期日において右を理由として地上権を消滅させる旨の意思表示をした。

従って地上権は消滅した。

四  被告の主張及び抗弁に対する原告の主張

1(一)  被告は、原告と訴外丸山との利用契約以上のものは取得しえない旨主張するが、法定地上権制度は競落による土地所有権の移転に伴ない従前の利用関係を消滅させるとともに別個に土地利用者と新土地所有者との間に地上権を成立させようとするもので、このことは判例(大判昭八、一〇、二七民集一二巻二六五六頁)である。

本件の場合、原告と訴外丸山との間では、通常の印刷体の土地賃貸借契約書が用いられて利用契約がなされているが、当事者双方とも、契約当時、土地は競売手続中であったが、競落されようとも本件建物の存続のために法定地上権が発生するとの前提で、その予期のもとに本件建物を原告が買受けかつ右土地利用契約をなしたものである。

一方、被告は、本件土地に抵当権を設定するにさいし、本件土地上に本件建物が存在し、しかもその存在によって法定地上権が抵当権実行により必ず発生することを予想して、抵当権を設定し、競売の申立をなし、かつみづから競落しているものである。被告は、正規の金融機関であり、その辺のところは、よく知っているのである。現に、被告は、訴外丸山に対し右抵当権を設定するにさいし、抵当債権担保のため、訴外丸山の友人である訴外石井栄一所有の浦和市高砂町一丁目一〇三番一、宅地六四・二三平方メートル外一〇筆の土地と地上の建物一棟にまでも抵当権を設定し、本件土地の担保価値の不足を補っているものである。

被告の抵当債権は本件土地や右石井所有物件の抵当権実行等により全部弁済となっている。

右の次第で、被告も法定地上権を予想しつゝ本件土地を競落しているので、実質的に法定地上権を原告、訴外丸山間の利用契約にまで弱めて解する必要はない。

(二)  法定地上権の成立範囲についても右と同様である。

2(一)  抗弁事実を争う。民法第二七六条の要件事実がない。

(二)  原告は、被告の理事長宛に、文書をもって、土地を原告に売るなり、地代額確定の上契約を締結するかして、土地の利用関係を明確にしてくれるよう申出をしているし、被告業務部加藤賢治課長を窓口として、何度も、上申している。しかし、被告金庫は、態度をはっきりさせなかった。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因事実中1の(一)、(二)、(四)の事実は当事者間に争がない。

≪証拠省略≫を総合すると、訴外丸山は少くとも昭和三九年八月四日までに本件土地上に本件建物を建築所有して本件建物につき右同日付をもってその旨所有権保存登記を了したこと、そしてその後の昭和四四年一二月一九日原告が訴外丸山からその所有にかかる本件建物を買受けてその所有権を取得して昭和四五年三月一二日付をもってその旨登記を経由したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の事実関係によると、民法第三八八条により被告は競落により本件土地の所有権を取得するとともに原告の本件建物所有のために法定地上権を負担することになったものといわねばならない。

もっとも被告は、本件土地の所有者については抵当権設定当時から本件建物の競落まで訴外丸山であったが、その地上に存する本件建物の所有者については訴外丸山から原告にかわったものであること前記のとおりであり、右両者間には本件土地につき賃貸借契約が締結されていたのであるから、法定地上権の立法趣旨に鑑みると、本件土地につき原告が有する権利は、法定地上権ではなく、右賃貸借契約によるべきである旨を主張し、訴外丸山と原告との間に本件土地につき後記のような賃貸借契約が締結されたこと後記のとおりであるけれども、競落による土地所有者と建物所有者の間を拘束するのは法定地上権のみであると解するのが相当であるから(原告引用の判決参照)被告の右主張は採用しない。

二  そこで法定地上権の内容、範囲について検討する。

1  被告は、前記のように訴外丸山と原告との間に本件土地につき賃貸借契約が締結されているから、法定地上権の内容は、右契約の内容の範囲内に限るべき旨主張するけれども、競売前に関係人間で任意に設定された賃借権の内容が法定地上権のそれよりも強いものであろうと、弱いものであろうと、それは競売によって消滅し、競落による土地所有者と建物所有者の間を拘束するのは法定地上権のみであると解するのが相当であるから(原告引用の前記判決参照)、被告の右主張は採用しない。

2  地代について

本件法定地上権の地代につき、昭和四六年九月七日から昭和四九年一二月末日まで三・三平方メートルあたり五〇〇円、昭和五〇年一月一日以降三・三平方メートルあたり金一、〇〇〇円をもって相当とすること当事者間に争がなく、その支払時期は民法第二六六条二項、六一四条により毎月末日ということになる。

3  存続期間及び使用目的について

≪証拠省略≫によれば本件建物は軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建であり非堅固建物であると認められ、法定地上権設定には当事者間の設定行為はなく、存続期間の定めのない場合に当るから、民法第二六八条二項に従い当事者の請求により二〇年以上五〇年以下の範囲内において裁判所がこれを定めるものであるところ、右認定の事実及び弁論の全趣旨によると本件地上権は非堅固建物の所有を目的とするものであること明らかであるから借地法に定められた借地権の存続期間によるのを相当とし、同法第二条一項により三〇年が相当である。この期間は法定地上権成立の時すなわち被告が本件土地の所用権を取得した日である昭和四六年九月七日(この事実は当事者間に争がない)から起算されるから、右同日より三〇年ということになる。

4  範囲について

法定地上権の範囲は必ずしもその建物の敷地のみに限定せられるものではなくして、建物として利用するに必要な限度において敷地以外にも及ぶものであるところ、法定地上権制度の根拠が抵当権者・競落人及び設定者の意思の推測に求められるにとどまらず、社会経済上の不利益防止という公益的理由に求められることに鑑みると、右の建物として利用するに必要な限度とは単に主観的に建物の利用のため必要であるにとどまらず、客観的にも建物の利用のため必要であることを要すると解するのが相当である。

そこで右の見地にたって本件の法定地上権の範囲につき検討する。

(一)  本件土地の面積が一〇一・七五平方メートルであり、その形状が別紙図面記載のとおりであること、本件建物の面積が二五・九二平方メートルであり、その位置・形状が別紙図面のとおりであって、その出入口が南側道路に面していること、本件土地中、(イ)本件建物の東側部分は空地となっており、(ロ)本件建物の北側部分は約六坪のプレハブ建物(その位置は別紙図面のとおり)があり、その南側に墓石セット(その位置は別紙図面のとおり)があることは当事者間に争がない。

(二)  前記一の各事実、≪証拠省略≫を総合すると、

(1) 原告会社は金融を業とする会社であるところ、いわゆるその子会社である理興産業が共同賃借人となって、本件抵当権設定登記後である昭和四一年一一月六日訴外丸山から本件建物及び本件土地全部と他一筆の土地とを借受けたところ、前記のようにその後の昭和四四年一二月一九日原告が訴外丸山から買受けたが、そのさい、本件土地についてはあらためて原告が訴外丸山からその全部につき賃料一ヶ月金一五三九円、期間は昭和四四年一二月一九日から向う二〇年間の約定で賃借りしたこと、

(2) 原告及び理興産業は前記のように本件土地建物等を賃借したのであるが、その当初には、本件土地中、本件建物の北側及び東側部分に空地部分があるので、理興産業においていわゆるサラリーマン金融及び自動車金融を行い、本件建物をその事務所、右空地部分は自動車置場として使用したが、その後原告が富士山麓一帯で墓の造成、販売を行う財団法人富士霊園の販売代理店となり、その取次をするようになって本件建物をその事務所にもするようになったが、そのさい理興産業の右自動車金融についてはこれを廃止し、かわりに前記墓石セットの見本を前記のように右空地部分におき、前記のように原告が本件建物を買受け本件土地を賃借りして後も引続き右状態のまま現在に至っていること並びに原告が右本件建物買受、本件土地賃借り後間もなく、前記のように本件土地の北側部分に前記プレハブの建物を建築所有して当初は留守番小屋として使用したが、その後は倉庫として使用していること、

(3) 原告は訴外丸山に対して金員を貸与したことから、訴外丸山からその弁済にかえて、前記のように本件土地建物を賃借りし、さらに本件建物を買受けかつ本件土地につき賃借権の設定を受けたものであり、右の本件土地を賃借りしたのは、本件土地の使用自体よりも、本件土地の賃借権ひいては法定地上権(その範囲はともかくとして)を本件建物とあわせて後日、これを換金するなどすることにより訴外丸山に対する貸金債権の回収をはかるためであったこと、

(4) 原告は本件土地全部につき法定地上権の成立することを期待していたこと、

(5) 抵当権者であり、競落人である被告は本件土地につきその範囲はともかく法定地上権の成立することを予期してはいたが、その範囲がその全部にまで及ぶとは予期していなかったこと、

以上の各事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(三)(イ)  一般に前記のような霊園の墓の造成、販売については、墓石自体及びその陳列自体はそれ程意味を有するものでないこと明らかであり、前記(一)、(二)の各事実及び≪証拠省略≫によると本件において前記墓石につき、本件建物内にこれを陳列しえないわけではなく、またそのパンフレットでもまかないうることが認められ(右認定を左右するに足る証拠はない)、

(ロ) 前記(二)の認定の用に供した各証拠及び前記(一)、(二)の各事実(特に原告会社の事業内容、本件建物自体の使用状況、プレハブ建物設置の時期、その当初の使用状況)に徴すると(a)前記プレハブ建物も事務所として使用している本件建物の利用に必要なものとは認め難く、(b)原告において、本件法定地上権の範囲を本件土地全部に及ばしめる目的のために右プレハブの建物を設置した疑いがないわけではなく、その範囲が本件土地の全部に及ぶものと考えていたものとは認め難い。

(四)  前記(一)、(二)の事実及び(三)において説示したところに、弁論の全趣旨により認められる本件土地が近隣商業地域かつ準防火地域に属し、建築面積の敷地面積に対する割合が十分の七をこえることができない事実及び前掲(二)の認定の用に供した各証拠をあわせ徴すると別紙図面中、イ、ト、チ、リ、イの各点を直線で結んだ線内の三七・九六平方メートルの土地(別紙図面朱線内の土地)が本件建物の利用に必要な範囲すなわち本件法定地上権の及ぶ範囲であると認めるのが相当である。

三  地上権消滅の抗弁について

かりに被告主張の事実が認められるとしても、弁論の全趣旨によると、本件法定地上権の地代額は当事者間の協議によるも、裁判所によっても、地代額が定まっていないこと明らかであるから地代の支払につき、原告にその債務不履行の責を帰することはできず、従って被告の右主張は理由がない。

四  よって原告は本件土地中、前記三七・九六平方メートルの土地につき前記のような法定地上権を有するというべく、また被告は、原告に対して右三七・九六平方メートルの土地につき分筆登記手続をなしたうえ、右の法定地上権の設定登記手続をなす義務があるというべく、従って原告の本訴請求中、右の三七・九六平方メートルの土地につき、右の法定地上権の確認及び分筆登記手続のうえその設定登記手続(原告の請求の趣旨は本件土地全部にまで法定地上権を認められない場合には右分筆を求める趣旨もふくまれると解せられる)を求める部分は理由があるから認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柏原允)

<以下省略>

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